我侭だなんて思わない
「サディクさんどこいくんですか。」
振り返ると布団にまるまって機嫌良くうとうとしていた筈の菊さんが膨れた顔で見ている。
「いやちょいと一服を…。」
「ここですればいいじゃないですか。」
布団をパンパンと叩いてこっちへ来いとねだる菊さんの、甘えた雰囲気に負けて布団際へ戻る。
俺はさぞかしデレデレした顔をしていることだろう。
俺が布団際に座りこむと菊さんは、満足げに、にんまり笑うと素っ裸なのも気にせずすり寄ってきた。
まだ充血の名残がある乳首が室温にさらされて、ツンと尖っているのが可愛らしい。
すりすりと顔を俺の胸にこすりつけると、ぽふと頭を肩口にのせてふふふと笑った。
「風邪ひきますぜ。」
「煙草吸わないんですか?」
「吸いやせんよ、目の前にこんな良いもんがあるのに。」
そう言って冷たくなり始めた耳を唇で噛むと、あんと首をすくめた。
おいおい、駄目じゃねえか可愛すぎるぜ…じゃねえよ俺、思ったより冷えすぎてる、だろ。
そういやこの人ぁ冷え性だっけな。
「布団入って下せえよ、ほんとに風邪ひかせちまう。」
「やです。ひとりでお布団入ってても寒いんです。」
むー…と唸りながら胸を擦り付けるってのは何ですか試してんですか全く小悪魔にも程がありやすぜ。
まあこの人にンな技も他意もねえんだけどよ。
「サディクさんのせいで熱くなったのに急にひとりにされたら寒いんですからねっ。私冷え性だし、サディクさんが一緒にいて暖めてくれなきゃ駄目なんですー。」
俺の肩に頭を乗せたまま、白い胸をより一層密着させて、うーと唇を尖らせて拗ねる菊さん。
俺は顔を熱くした。
なんだその理屈、今まで片手で数えるくれえしかしてないが、あんた毎回疲れてぐっすり寝てたじゃねえですか、それを今夜になってそんなああちくしょうもう有罪決定だ、可愛すぎて外に出しとけねえあんたはもう。
俺はなんて言やあいいかわからず恐らく真っ赤であろう顔を落ち着けるため、額に手をあてた。
仮面を外したのは不覚だった。
まったくなんて可愛い駄々をこねてくれるんでえ、この人は。
「菊さん。」
「はーい?」
甘えん坊モードの菊さんの頬にふれてチュッと唇を重ねれば、どちらも冷たい。
菊さんがうふふと笑って俺の手のひらに頬ずりしている、すりすりと。
ああ、天使がいるぜ。
「サディクさんはあったかくて、気持ちいいですね。」
「あんたが冷えちまってるからですよ。」
まったくもう、そう言いながら抱きすくめて布団に押し込めば菊さんは素直に従った。
ああ俺の手も熱も身体も全部、あんたにさしあげまさぁ。
もう俺はまったく重症だ。
あんたを俺の目にふれさせることすら惜しいなんて。