そして、はじめまして

※「彼に降る雨」の続きです。2つでワンセットです。


※なのでこちらも八房龍之助『仙木の果実』シリーズとのダブルパロです。



※アーサーが悪役という不憫役なので、許せないって方はご遠慮ください。



※親分の関西弁…文字にすると変なところもあるのでフィーリングでお読みください。



※実にすみません、BLはまだ始まっておりません。これからさ!



※それでOK!な好奇心旺盛な方は是非どうぞ、さあどうぞ。






端の見えない柱に支えられているらしい暗い天井はどれほど高いのか、アントーニョは目を開き思考を眼前の空間へ向ける。
「カリエド、聞いてるのか」
「聞いとるよー」

「では話を続けるぞ、嘘はお互いの為にならない。正直に答えろ、フランシスとエーデルシュタイン達から何を受け取った?」
「は?何言うてんの?」
「ある筈だ、俺の知らない何かが」
そして目の前の男、アーサー・カークランドは作品の自慢を始める、曰く北の阿片窟で拾った男を丈夫にした。曰く、巴里で病気に苦しんでいた少女を治療し肌も美しく張り変えてやった。
悪趣味だなぁと思ったが、アントーニョはうんうんと頷いた。
「ほんで、何が言いたいん?」
「こういう知識は、広く分け与えるべきだろう。それがどれだけ世の為になるか…!そう、例えば」
「例えば、伝説のエリキシール(長寿薬)みたいな?」
自分の語尾を攫って続けたアントーニョの言葉に、アーサーはにやりと笑った。

「自分、えらい若作りやなー思ったけど、苦労してんねんな。加減出来へんねやろ?いや変や思ったんやけどなそんな上っ面だけ取り繕って…。けどなぁ、理解らんから教えろってーのはムシが良すぎんで」
拘束された両腕をもちあげアーサーを指差し、アントーニョは続けた。
「今、ずっと1人でやってきた言うたやん。1人でやってくて決めたんやったら、最後までそれ通しとけ。1人が、1人でやってくんが出来んねやったら。ほんまにそれで平気や言うんなら」

アントーニョ脳裏にロヴィーノの笑顔がよぎった。
あの子がもうすぐやって来る。
「最後まで、やって見せろや」
アントーニョの顔がにやりと、歪んだ。


アーサーの顔色が変わり、焦るような表情が広がった。
「若造が知ったような口を聞いてんじゃねえぞ!」

アントーニョの胸倉をつかんで、アーサーは唾を吐いた。
「フランシスの奴、お前みたいなガキは良くて俺はダメだとぬかしやがった!」
なんやこいつフランシスの側におって俺の年もわからんのか若造よばわりなんぞされたないなぁと思ったが、口に出したのは違う言葉だった。
「そらしゃーないわ、フランシスは見る目だけはあった。お前にゃ才能なんざ無いってこっちゃろ。」
ギリッと奥歯を噛み締めて、アーサーの拳はアントーニョの頬をえぐった。

外では、異形の巨大生物がうぞうぞと増え、ロヴィーノに憑いた巨人でもさばききれぬ程だ。
拳を振るい、また正面からとびかかる異形を両手で受け止めれば、脇から倒したと思った異形がほどけ内側から現れた頭に食いつかれる。
その勢いは収まらずロヴィーノを咥えたまま、異形は煉瓦造りの塔の根元に突っ込んだ。
「いってえなあ…チクショー!」
ロヴィーノは異形が剥がれたのを幸いに、倒れた塔を持ち上げ放り投げた。
アントーニョがいるであろう、館のド真ん中へ。


「なんで、お前が!俺じゃなくて!お前は!」
アーサーの拳が次々とアントーニョの顔を殴打する。
『さっきからテンション高いなぁコイツ、フランシスに手だされとったんか?』
あいつ男の趣味は悪かったもんなぁ、とアントーニョは顔の造詣が変わりそうな現状にも頓着をしない。
両手を戒められ括り付けられた椅子も案外丈夫なのかアントーニョの表情と同じく微動だにしない。
ハッと息を呑む気配に、アントーニョが目を開ければ訝しげなアーサーの顔が見えた。
「鍵、か?」

その視線はアントーニョの胸元へと向けられる。
胸の中心に鍵穴のついた金属板があり、それを囲むように三日月に似た金属片がいささか食い込むように貼りついていた、それらが肌から剥がれ落ちないようつなぎ止めているのは、やはり金属の螺子に思われた。
明らかに、異質な飾り物にアーサーは青い顔をする。

「見てもうたな、お前」

アントーニョは、ぎしりと歯を向いて笑った。
額に青筋が浮かび、彼の思考が表情と真逆であるのを示していた。

そのとき、ドン!と重い音がして天井が破られた。
「なんだと!」
見上げるアーサーの視界に、連打を繰り出す何本もの巨人の腕を背に降りたつロヴィーノが飛び込んできた。
「ロヴィ!?」
「トーニョ!」

目の端にアントーニョの姿を認め、ロヴィーノは瞳を輝かせた。

「このガキ!人が封印してた業霊まで解き放ちやがって!」
死ね!と着地寸前のロヴィーノに向けて、アーサーは上下左右から口を開けた異形を放つ。

「チクショ…ッ」
宙に浮かんだまま、ロヴィーノはなんとか遮ろうと腕を上げるが、全ての異形を倒せるとは思えなかった。

そのとき、ロヴィーノの腕にかけられた腕輪がリィンと鈴のような音を立てた。
<見つけましたよ、痴れ者めが>
腕輪に唯一ついた紫の石から球体の気圧が吹きだし、ロヴィーノの髪を揺らした。
床にへたりこんだロヴィーノの前には、優雅に黒マントを揺らし立つローデリヒの姿があった。
「ご苦労さまでした、ロヴィーノくん。」

「エーデルシュタイン!?」
「気安く呼ばないでください。」
驚くアーサーを尻目に、ローデリヒを守る戦乙女が全ての異形を振り払った。
彼女が両腕で下から上へ剣を振るえば、全ての異形と館が切り崩される。

「くっそお!」
崩れ行く全てを見、歯軋りをするアーサーの背にアントーニョは近づいた。
アントーニョを拘束するものは何もない。
アーサーは振り返るが、すでに遅い。
いや、そもそも力量の差は圧倒的だったのだ。
振り返ったアーサーの心臓を指差して、にっこり笑ってアントーニョは告げた。
「はよ、逝ねや」

アーサーの胸に穴が空き、ぐにゃりと体の全てが吸い込まれた。
「あ、う、ああああああああああああ」
声がだんだん小さくなって、それで、終わり。



綺麗さっぱり崩れ落ちた館の中で、アントーニョはごまかすように頭を掻いた。
「いや、そのなー別に隠してたわけ、ちゃうねんで?そのーちょっと黙ってただけ、いうか…」
「…別にいいって言ってんだろ。俺はお前の使用人、なんだし。分かってんだからな、そんくらい」
いつになく聞き分けの良い事を言って、膨れもせず俯くロヴィーノに、アントーニョは大いに罪悪感をあおられた。
『ああ、なんでこんなん…ロヴィーノかわいすぎやわ!』
もしかしたら初めての心境に、うううううと唸りながらアントーニョは眉根を寄せ頭を抱えた。

「人間というのは口に出さねば解らない事の方が、多いのですよ。」
このお馬鹿さんが、とローデリヒは溜息をつく。
わーっとるわ相変わらず嫌味やねんからー・・、と友人に恨みがましい視線を送ってアントーニョは咳払いをした。

「あの、な、ロヴィーノ!」
「なんだよ。」
「えーと、アントーニョ・H・カリエド、【魔法使い】っちゅーのやってます。」
きょとん、と目を丸く開いて自分を見つめるロヴィーノにアントーニョは手を差し出した。
「その、今後ともよろしゅうに…な?」
「…ん、仕方ねー、な。もう、心配させんじゃねーぞ」
飛びつくようにして両手で自分の手を握り返すロヴィーノに、アントーニョは力いっぱい頷いた。

「うん、もう置いてったりせんよ、約束。」

アントーニョの笑顔に、ロヴィーノもようやく笑った。


END.

10.02.07