会議の後、イタリアとドイツに別れを告げた日本にアメリカが声をかける。
いつもの光景だが、今日はそこにトルコが混じった。
ひとしきりトルコとアメリカが言い合ったと思えば、アメリカが日本にしがみつき、トルコは拳をなんとか押さえるときびすを返した。
「日本、俺ぁ先に行くぜ!」
「え、あ、あのトルコさんっ…アメリカさんすみません私行きますねっ」
日本、と珍しく小さな声でアメリカが何事か囁くと、日本はポンと顔から蒸気を出して赤くなった。
「そ、そうなんでしょうかっ。」
頬に手を当て照れる様子に周囲の国々は何事かと訝しんだり、萌え…っと見つめたり。
もちろんトルコもそんな様子に、苦虫を噛み潰したような顔をしているであろう様子が仮面の下、口元から伺える。
「行くぞ!」
先程より怒号に近い声を上げるトルコに各国の非難の目が集まる。
日本は慌てて、それでは、とアメリカに礼をしてトルコを追いかける。
アメリカはご機嫌で、親指を立てグッドラック日本!ヒーローは君の味方さ!と笑っていた。
「ト、トルコさん、待って下さい…あっ。」
慌てていたからか裾が絡みつき、絨毯による小さな段差につまづいてしまう。
とっさに手をつこうとしたら、大きな腕に抱きとめられた。
「トルコさん…。」
「気ぃつけろよ、まったくお前さんは危なっかしくていけねえ。」
「す、すみません…あの、怒っておられますか?」
「別に。」
「で、でも…。」
「怒る理由がねえ、行くぜ。」
強引に手を引かれた。
傍目には乱暴な振るまいに見えたが日本は手を強く握られていることが嬉しかった。
実は歩く速さも、歩幅の違う日本を気遣ってかいつものトルコのそれよりぐんと遅いのだ。
だがトルコは日本といるときはゆっくり穏やかに歩くので、日本がそれに気付いたのは最近だ。
とても嬉しかった。
だから、たぶん今彼がご機嫌斜めなのは、おそらくきっとアメリカの言った通りなのだ。
嬉しくなって、日本はふふふと笑った。
「なんでえ?」
「いえ、なんでも。」
「笑っただろ。」
「ええと、嬉しくて。」
「…そうか。」
「なんでか聞いてくださらないんですか?」
「聞いて欲しいのかい。」
「どちらでも。」
エレベーターの中、ふふふとまた笑って、手は握られたままなので日本はトルコ抱かれるように寄り添った。
少しだけ頭を彼の胸にくっつけて。
「あなたといられる全部が幸せなので、どちらでもいいんです。」
人目が無い故の日本の素直さに、トルコの不機嫌は飛んでいった。
「そうかい。」
「はい、そうです。」
「んじゃ、まぁ飯、だな。」
「はい、そうですね。」
「んで、夜な。」
「はい、ずっと一緒にいてくださいね。」
エレベーターが開いたので、トルコと日本は手をつないで外へ出る。
「デートみたいですね。」
「デートだろい、付き合ってんだからよ。」
ニカッと笑うトルコに日本はまたふふと笑う。
「夢みたいで、忘れそうです。」
「忘れさせねえよ。」
いつもの国々いつもの会議、ひとつだけ違うのはあなたと私が恋人だということ。
それだけでもう、幸せな時間。
もっとも余計な邪魔が入らなければいいというトルコの危惧が、この後大いに的中するのだが、今のふたりは知る由もない。