Boys be Melto!

放課後になって急な雨降り、フランシスは「可愛い子ちゃんと相合傘だよーん」と先に帰ってしまった。

「あ、俺折りたたみ持ってんで〜。」
「ぷ、なんだそのおっさんさい傘。」
「しゃあないやん、百均のやでー。」
「仕方ねぇな!俺様の素敵スタイリッシュ傘に入れて…入れ…。」

首を傾げるアントーニョに向かってギルベルトは腕を組んで偉そうにのたまった。

「…仕方ねえな、入ってやるよ!」

りぃ ん

鞄を脇に挟んでギルのキーホルダーの鈴が鳴った。
鞄かきまわした後、偉そうに言うてもそんなほっぺ赤くした顔やと迫力ないで?
もう、見慣れた顔やのに可愛いとか思てまうやん、あれ?なんか心臓苦しい?

「おら行くぞ。」
「素直に入れて、て言うたらええやんもー。」
「濡れるだろ早くしろよ。」

「はいはい、もー。」
「あ、待った。」

アントーニョが傘を差そうとしたらグイッと襟を引っ張られた。

「わあっ何?なんなん?」
「靴、紐ほどけてるから結べよ。傘持っててやっから。」

「あ、うんありがとー。」

なあなんで前に立ってたくせにそんな事気ぃつくん?お兄ちゃんやから?
しかも傘持つって差してくれてるし、さっきまで指にかかってた雨当たらんようになったよ。
もう指は冷たないのになんで震えてんねやろ。
ていうか、なんでそんなかっこいい事するんギルベルトのくせにっ。
あかん、なんか顔熱いわ〜。

「も、あかん…」

思わず口に出してた。
しもた、て思ったら何やってんだよって傘肩にもたせて俺の前にしゃがみこんで、何すんの顔見えるやん。
赤なってんちゃう俺。あかん恥ずかしすぎるやんっ。

「こんなんちゃっちゃと結べんだろ〜?」
ガキじゃねえんだからって、ああ泥んこ付いた紐結んでくれた、しかも綺麗な蝶々結び。
こんなんさらっと出来んのはやっぱお兄ちゃんやからかなあ。
うん、かっこええなあ。
「ありがとー。」
「呑気に言ってんなあほ、早く帰るぞ、濡れて寒いっ。」
「あ、せやんな、ごめんなっ行こ行こ、帰ろっ。」
「別にいいけどな、早く入れよ置いてくぞ。」
「あ、うんごめんー。」

傘をふいと揺らして呼ばれたから、普通に相合い傘。
うん今までも何回もしてるんや。
せやけど、なあなんでやろくっついた肩にドキドキすんの。救心ってこういう時にのんだらええんかなあ。

「あ、傘持つわな、ありがとー。」

あかん、なんか緊張してうまく喋られへんで、どないしょー俺。

「あ?いいぜ別に。ていうかお前に任せたら濡れる。」
「えーそんなんせえへんよ?」
あわあわと手を動かしたらな、ギルベルトがな笑ってん。
ふわってなすごい優しくてかっこよく、笑ってん。

「ばーか、そんな動きすっからだろ。くっついとけよ。」

ふわわわわ、肩組んだら顔近いて顔めっちゃ近いて!
綺麗な顔はフランシスで見慣れてんのになんで俺ギルベルトでこんな顔熱くなんの!?
もーわかっててやってんちゃうかなコイツ。
ていうか…

「なあ。」
「ンだよ?」
「もしかして背ぇ伸びた?」
「ふっふっふ、よく気づいたなお前より高いぜ!ついでにフランシスより高い!」
「えーいつのまに!ずるいわーっ!」
「男前は背も高くなるんだよ、俺様ばっかり1人素敵過ぎて悪いね〜。」

けけけっと笑ってる顔はいつものギルベルトで、なんや、ほっとした。
そうか、背ぇ高なったからギルベルトがかっこよく見えたんやな!
あーびっくりした。

それからはなんか普通に話して、うんさっきのドキドキとかは気のせい!ギルが背ぇ高なってたせい!
うんうん、いつもやったらお世話焼きポジションはフランシスやのに、珍しくギルが優しかったからびっくりしただけやねん。前に菊ちゃんが言うてたギャップ萌ってやつやね!

そやそや、大丈夫なんでもないねん。
俺とギルは親友やもん。
うん、せやから…もうちょっとで駅着いてもうたら、傘たたんで相合い傘終わったら勿体ないなあって思うんは、気のせいやで。
やって、明日になったらまた会えるもん、俺たち同級生で幼なじみで親友、やねんから。
また明日も3人で、遊べるんやもん。
寂しいことなんか、なんもないやん、な?

「あ、タイヤキ屋空いてる、食ってこーぜ」

せやから手ぇ組まんといてって!
なんで俺こんなドキドキすんの!!
もう、誰かなんとかしてえな!

「おらチョコ味、好きだろ。」
「ありがとー、ちょっと待ってや、お金…」
「いらねえよ、奢ってやるぜ。」
傘の礼だ!なんてタイヤキ差し出して笑てもかっこつかんと思うねん。
せやけど、なぁ、なんで俺こんなに嬉しいんやろ。
同じくらい恥ずかしいけど、なぁ、ギルのそれはわざとなん?わざとやろ!?
もういっそギュって抱きしめてくれたらええのに…。
なんて、そんなんいっつもこっちからしてるちゅーねん!

「ありがとー!ギルええやつ!大好き!」

どさくさで抱きついたった!

びっくりしたギルは傘落としそうになって慌ててんの、ざまぁみろや!
俺はちょっとスッキリしてギルの持つ傘を支えた。
「あはは、濡れてもたなー」
「っの、バカ!」
「あはは、ごめんてー。」
「初めっからそうやってくっついとけよな!」

そうやって、ギルに腰抱えられてひきよせられた。
「行くぞ!」
「ちょ、え、えー歩きにくいってー」
「るせ、自業自得だ!」

えーえーえー、ちょ、なんなんこの状態?
俺喜ぶべきなん?逃げるべきなん?

もう、ほんまにわけわからんから俺はおとなしくタイヤキにかぶりついた。
ちょっと雨に濡れた皮ははにゃっとして、それでもチョコは甘くて美味しくて。
ごめんなフランシス。
俺、ギルとふたりだけって嬉しいなぁって、思ってしもた。

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そんなふたりの後ろにちらちらと見え隠れする人影。

「あら、メルトっぽい展開ですねぇ。」
「つーか進展してんのかが微妙なとこだよなぁ。」
「アントーニョさんは普段からスキンシップ激しいですもんね」
「そーなんだよねぇ、まぁギルにしちゃ頑張ったかな?」
「そうですねぇ、しかし男子高校生の腰抱きってなかなか萌えますね。」
メモメモと携帯の画面を素早く押す菊に、それネタ帖?と覗きこむフランシス。

『雨降りだよメルトれ!大作戦』はひとまず終了である。

「しかし、ふたりくっついちゃうとおにーさん寂しいなー。」
「くっつける気マンマンで何言ってるんですか。」
「そりゃ、まぁギルがなんとか出来るとも思えないしねぇ」
肩をすくめるフランシスに、菊はにっこり微笑んだ。