甘えて眠るの特等席で



それは穏やかでうららかな昼下がり。

「今日はトルコさんとお約束をしていたんです、だから今日は私はトルコさんといますね」

ギリシャは悲しそうな顔をしたが、日本さんは優しく且つきっぱりと言った。

「約束を破るのも破られるのも悲しいことです。
どうか私に約束を守らせて下さい。ね?ギリシャさん」
と日本に言葉を促されて、しぶしぶギリシャは頷いた。


「じゃあ俺も、日本とヤクソク、したい」

あらあらと日本は苦笑して頷いた。

「どんなお約束を致しましょう?」

日本さんの言葉にぱああっと分かり易い笑顔をみせたギリシャは、まるで子犬のようだ。
正直目の前での約束など止めたかったが懐の小さい男と思われたくはない、
何せこのひとは、トルコの懐の広さに安心して甘えている節があるからだ。
日本さんとユビキリをして満足そうなギリシャは素直に帰っていった。

ギリシャを見送り、ふうと溜息をついて日本さんは戻ってきた。
もういいだろうとトルコが腰を抱けば珍しく素直に引き寄せられてくれる。
何も言わずとも愛しいひとは微笑んで、俺の膝に腰掛けてその胸にしなだれかかる。
柔らかな髪に口づけて頬を撫でれば、喉を鳴らす猫のように目を細めて身をまかせている。

「明日、あいつに膝枕してやるんですかい?」

「ええ、約束しましたもの。」

頬を撫でる指に嬉しそうにすりすりと頬ずりし、鼻先や唇で手のひらを探るようにして甘えるこのひとはとても可愛らしい。
しかし、同時に酷く官能的で毎回毎回とても目の毒だった。
日本さんがその気で誘っているなら問題はない、望むところだ喜んでだ。
だがあいにく、このお人はただ甘えているだけなんだよなぁ。

しかもそれはトルコが散々掻き口説いてようやく見せてくれるようになった仕草で表情で、襲ってしまった日にはどうなるのか恐ろしくて手も出せない。

誇り高く気遣い屋で恥ずかしがり屋、好意を示せば犬のようにしっぽを振るが構いすぎれば猫のように警戒し逃げてしまう。まったくもって難しい。
ここまでこのひとが甘えてくれるまで、どれほど気を砕いたか、しかも聡いこのひとに気づかれぬようにだ。

ギリシャがこんな姿を目にして、黙っていられないのも無理からぬこと。
だからといってこの位置をホイホイ譲るわけもないが。

「ねぇ、トルコさん?」

「なんです、日本さん」

「トルコさんは、あったかいですねぇ。やっぱりムキムキだからですか?」

ふふふふ、と笑いながら俺の胸に顔を埋める。
愛しいひとは今日はずいぶんとご機嫌だ。
頭を撫でて耳に触れれば首をすくめる、やわやわと揉み解せば動くのを止めてやがてすーすーと寝息が聞こえる。
冷えちゃいけねえと傍らにあった自分の上着を背にかける。
昔のような布を幾重にも重ねた服だったならば、このままあんたを包みこんで攫ってしまえるのになぁ。
過ぎた年月を懐かしみ、それでも心は満ち足りて、トルコは子守唄を口ずさむ。
愛しい人が夢でも自分を忘れぬように。

そのうたは、静かに甘く日本の眠りに染みこんだ。



2009.01.04