囚われびと
※というわけでドパラレルです
※西の将軍サディクさんと、東の皇帝の弟の菊さんで、過去に面識があります。
※菊さんは普段はひらひらした服を着てお城の中をふらふらしてます。
※そんな菊さんしかサディクさんは知りません。
※でも菊さんは気持ち悪いくらい強い剣士です。ただし公には知られてません。
※お互い片思いだと思ってます。
※そんな感じですが許せるぞっていう寛容な土日スキーさんは、是非どうぞ。
「ご気分はいかがです?アドナン将軍」
耳鳴りの向こうで聞こえる上品ぶった声に目を開ければ、薄暗がりに華奢な影がゆらめいているのが見えた。
黴臭い冷気が鼻をさす、腕が動かないと思ったら両手首を貼り付けるように鎖に繋がれていた。
負ける気はしなかった、体格も力も剣の腕もこちらに分があるはずだった。
だが負けた。敵が1人と見た油断が悪い、戦は常に一度きりの大勝負だったはずなのに慢心に身を蝕まれ、手の届きそうな宝を失った。
振り下ろされる剣に死ぬのかと思った瞬間、意識を手放した。魂ごとあのひとの下へ行ける気がした。
なのにまさかの囚われ人だ、ちくしょう。
「アドナン将軍、見えていますか?」
蝋燭の火が目の前に差し出された。ぼんやりとゆれる灯りに華奢な人物の顔が露わになる。
その男は、白い仮面を被っていた。
「おい。」
「よかった聞こえていましたか、頭を打ちつけたので使いものになっていないか心配しましたよ。」
いやそれお前のせいだろ?
目の端で、赤黒い小さな鎧が跳ねた瞬間、眼前にきた鎧の鬼面の奥で白い歯がニィと笑ったのを覚えている。
あれは絶対こいつだ。
「そいつぁ…俺んだ。」
気迫を込めて絞り出せたのはかすれた声、迫力も何もあったもんじゃねえ。
「これですか?」
自分の顔を指差して首を傾げるが可愛くもなんともねえ。
「けぇ…せ」
「これは私のですよ。あなたに勝った証ですから」
口に手をあて、ふふふと笑う。
その仕草はあのひとに似ていて神経が逆なでされる、ますますこいつがこ憎らしく見えてくる。
「ではアドナン将軍、お伺いしたい事があります」
「こ、とわ、る」
「おや、つれないお返事」
仮面の男は、笑っている。
「あなたの望みはなんですか?」
質問の意味を飲み込めず、反応が遅れる。
男はどういう意味に取ったのか、質問を重ねる。
「あなたが望むもの、欲するもの、勝利の果てに夢想したもの。
和平を蹴り母国を巻き込んでまで我らが皇帝陛下に挑む、その理由。私達が知りたいのは、それです」
「なん、だ、そりゃ」
男はとても饒舌にサディクに問いかける。
「あるのでしょう?
戦いたいからなどと稚拙な理由で、目の前の和平を蹴るほどあなたは愚かではありません。
私達はそれを知っています、だからこそ、知りたい」
なんだ、こいつ。
男の話しぶりは尋問や拷問のそれではない。
「知って、どうする」
「差し上げましょう」
「あ?」
「皇帝陛下はあなたを買っている、あなたが欲しい。
その代わりに、あなたの望むものを差し上げましょう」
「誰が、欲しいのです?」
男の指は俺の頬に触れる。
白い仮面から覗く目は闇深き夜の色。
目の前の男はなんだ、鬼神か悪魔か。
「な、に…」
「あなたの志すら凌駕させた、想い人のことですよ。
さぁ仰いな、あなたの為に私が攫ってきて進ぜましょう?」
「かっさらえるなら…、てめぇ、なんかに、あのひとを…」
触らせてたまるか。
俺だってまだ、肩だって抱いちゃいねえんだ。
ただ一度触れたのは、あのひとの髪についた花びらを取った時。
花に嫉妬したのは初めてだった。
そしてあのひとが、仮面に触れた。
お相子だと言って、俺の仮面と髪に挟まっていた花びらを取った。
俺にとっちゃ皮膚と同じだった仮面をもどかしいと思ったのは初めてだった。
あの時、抱きしめてかっさらっていたなら。
何度も同じ事を考えて結局剣を取るしか出来なかった俺に、この現状は似合いってもんだ。
なぁ、菊さん。
2009.01.04