赤い空の下



※トルコさんと日さまはエルトゥールル以来会えてない設定で。
※トルコさんVSイギイギが見たくてやらかしました。
※そしていつも通り、もちろんフィクション。

※以上OKという寛容な土日スキーさんは下へどうぞ!








腹から胃液がせり上がり口内の血と混じり合った甘苦い液体が、イギリスの口から吐き出される。
「くっそ、この死に損ないがっ!」

「お口が悪いな、紳士様?」

獲物をなぶる野獣のようにトルコは笑った。

「国は変わる、そう言ったなぁお前さんだよ、なあ?」
そう、変わってやるさ。いずれあの人と肩を並べる程に、もう一度。

「そこで見てな、あのガキの為にてめぇが身を削る程のメリットなんざねぇんだ。」
そう、あの人や弟の為ならいざ知らず、こいつがここに居座る理由、少なくとも今は、ない。

「俺は、半端にかみつかれてる自分の体を取り戻すだけだ。そうだろい?」

刹那、イギリスの体が動き拳に全体重をかけトルコの頬を殴りつけた。ガッという鈍い音が頭蓋骨に伝わるが、トルコは姿勢を崩さない。勢いある拳を受け止めて、仮面にヒビは入ったろう。
口の中に鉄の味が広がるが、今倒れる訳にはいかなかった。意地でもな。

トルコは、ブッと赤い唾液を吐き捨てた。
両足をザッと開き大地を踏みしめる。
「やるかい?」
今イギリスを相手にする余力は、無い。
だが負ける気もしねえな。


「これで勘弁してやる。お前は一度、殴ってやりたかったからな。」
お前もだろう、と言いたげにイギリスはトルコを見る。

そう、今かの人の手をとり引き寄せて散々尽くされていながら、更におかしな執着を見せるこの男。
それを受け入れるあの人。
その関係が憎らしい。
お前もか、お前から見た俺もあの人に繋がっているのか、無様に縋っているのではなく。
そしてあの人は俺を…。


「は!ははははは!」


胸がすく、ひどく愉快だった。

ああ、目にいるのが彼でなくて良かった。
イギリスと肩を並べ東の帝国と囁かれる彼なら、かの人が守ると決めたならば決して引きはしないだろう。
その優しさを強さを俺は知っている。まして判官贔屓のお国柄、彼はとても一途なお人好しなのだ。そうさ、あの人に比べたら、覚悟も無しにガキに手を貸し欧州の庇護者をきどるお前なぞ、敵じゃねえさ。

ひとしきり笑ったが、イギリスに答えはやらなかった。
「住み分けと、いこうじゃねえか。」

生憎消えてはやれねえからな。
親指を下に向けて笑うと、イギリスはトルコに背を向け歩みだした。
トルコもまた夕暮れの赤い空を背負い海へと出る。
そう白い月と明星は輝き始める、恐れるものなど何があろう。

ああ、海を見れば思い出す愛しいひとよ。
あの人は、兄弟離れを目指すくせにあの人は、俺も同じアジアなら嬉しいと言ったのだ。

「空と海よりずっと近い場所で…繋がっているようで」

それは、理性的な彼の、奥ゆかしい彼の見せた泣き言か愛の言葉か。
必ず会いにいく、時代の戯れのように短い時間をむつみあった愛しいひとよ。


だから今は勝利を。
復活の狼煙をあげよう。
かつての権勢を疎まれ、欧州からはじかれアラブには拒まれる今、それが更にこの地を別ち孤独に歩む道であっても。
その果てにはあのひとがいる。




あのひとが、いるのだ。




泥に歪んで血に濡れてそれでも生き続けた、見苦しくとも哀れでも足掻くのを止めなかった。
その理由はただひとつ。
あのひとが、いること。
この胸にある太陽が、消える事を許さなかった死ねなかった消えたくなかった。

そして今トルコは、力に満ちた腕で新しい剣を取る。

太陽を目指す戦士達と共に。


2009.01.02