好景気で沸き立つ日本さんには有象無象が群がって近寄り辛い。
だが、だからこそ渡したいものがあった。
例え、欧米の眩い金銀芸術ブランド品の数々に紛れて顧みられないとしても。
映像や写真でちらと見かける(本当はしっかりと見ているが)彼の腕には、
かつて自分が贈った守りは見あたらず、体の芯がヒヤリとした。
エジプトに会いに日本が来ていると聞いて、駆けつけた。
「日本、さん、お久しぶりで。」
「まあ、トルコさんお久しぶりです、貴方もエジプトさんに?」
「あ、や、通りすがりでさ。」
「そうですか…。」
どうきりだしたものかと迷えば、それでは…と日本が去ろうとする。
「あのな!日本さん、これ、そのみっ土産代わりに良かったら持ってってくれねぇか。
じ、じっさまんちでも買えるがよ、うちが本場なんでさ。」
青い石に目の守りが連なったブレスレット、かつて彼に贈ったのと同じもの。
今の彼が身に纏う欧米のなんとかいう高級品とは比べものにならない安価なもの、だけどトルコには大切な、祈りをこめた愛のしるし。
けれど告げてもいない愛では胸を張ることも出来ず恥ずかしく、けれど、どうでも無性に彼に手渡したくて。
「まあ、ありがとうございます。」
花のように彼は笑った。
嬉しそうに、ふたつめですね、そう言って。
覚えていた!
初恋を叶えた少年のようにトルコの胸は歓喜に高鳴る。
彼は覚えていた!
「あ、ああ、うん。こいつぁ、あんたを妬む連中の視線なんざ全部はねのけやす。
俺の、代わりでさぁ!」
浮かれて余計な事まで言ったと後で恥ずかしくなった。
けれど。
「以前頂いたものは切れてしまったので、嬉しいです。大切にいたしますね。」
そう言って笑って、彼は去った。
そう、嬉しそうに笑って!
頬を染めて笑ってた!
はにかみながら笑ってた!
子供であれば飛び回って喜んだかもしれない。
彼の腕にはまた、俺の渡した守りが睨みを効かす。嬉しくてたまんねえ。
あのひとが金持ちになったからって卑屈になって馬鹿みてえだった。
元々、帝政を捨てて以来の俺は一から始めてまだまだこれからじゃねぇか。
そりゃぁあの頃たぁ国力は違わあな、急成長したあの人にゃあ追いつけねぇ。
それでも、芯は同じ俺じゃねえか。
まったく俺って奴ぁよお、あのひとは、いろんなもんが変わってもちゃんと覚えててくれたじゃねえか。
彼の記憶に俺の居場所は、あるじゃねえか。
嬉しくて泣いた。
笑いながら、泣いた。
器用な自分がおかしくて笑った。
ネジが外れちまったぜと笑い、トルコは愛しいひとに触れた幸せな指に口づけた。
そしてまた、涙が溢れた。