(勝手に)T様に捧ぐ『サディにょ菊』

※ものっそいパラレルです

※いきなり始まるんだゼ。ドラマチックにしたかったんだゼ。

※菊さんが先天性おなごです。

※楊さんが菊さんのにーに(出番無し)

※サディクさんが年下ニュアンス。

※菊さんは憧れの…!!みたいな距離感が普段はあったのです。

※相変わらず設定補足多いよ、でもオッケーバッチコイ!な方は是非どうぞ。











目の前で枯れていく花をただ見守るだけなんて殊勝な真似できるか!
余計な真似だとわかっていても、サディクには我慢がならなかった。
菊を追い詰める輩も、菊を守りきれず縛りつけ孤独の中に置く楊も、自分を頼ってくれぬ菊も。

「楊はあんたを守ったあんたを愛した、だが楊の一族はあんたに何をした!
あんたを異国の妾腹と蔑み、楊から引き離し、地球の真反対へ売り渡そうとしてる! 確かに、今、楊は何もできねえ…だからってあんたが唯々諾々と従う必要はねえんだ!」

「けれど、私に何が出来ましょう。あなたが言ったように私は異国の妾腹の小娘です。 せめて兄の為に嫁ぐくらい、それくらいしか出来ぬのです!」

「楊が、あんたの兄貴が、みすみす愛人にされるとわかっていながら、喜んで可愛い妹をあんな眉毛にやると思うのか!
楊があんなになってまで、この地にしがみついてんのはなんでだと思う!」

菊は一瞬目を見開き、サディクを睨み唇を噛みしめる。
売り言葉に買い言葉だったが、俺は間違っちゃいねぇぞとサディクは揺らぎそうになる自分を叱咤した。
たじろぎもせず見つめ返すサディクの視線から逃げるように、背を向けた。

「知っています!そんな事っ貴方に言われなくとも…そんな事…だから、私さえここにいなければ…。」

声は震え徐々に言葉は消えてしまう。
空気にすら押しつぶされ消えてしまいそうな肩をサディクは抱きしめた。

「なら捨てちまえばいい。こんな、あんたを苦しめる場所なんざ。
俺があんたを守る、あんたが俺を守ったように、俺が守る。絶対に誰にも傷なんかつけさせねえ!」

すうっ…

と息を吸い込む音がして菊の体はこわばった。
一瞬堪えるようにわなないた唇からは、声にならなずただ咽ぶように息が吐き出される。
涙がこぼれた、滂沱の涙は菊の陶器のような頬をさらさらと滑りサディクの袖をひたひたと濡らす。

魂が抜けるように崩れ落ちる華奢な体を、サディクの腕が容易く、だがすがりつく様に支えた。
背中に感じる彼の熱さに、菊の胸に重くあった塊が涙となって逃げていく。
それは菊を苦しめるものでありながら、今不安の渦中にある菊を動かす意地のようなものであった。

「どうして…。」
サディクの肩に頭を預けただ涙を流し菊は呟いた。

あなたさえ来なければ私は立っていられた
私は戦えたどんな屈辱にも痛みにもきっと耐えられた
それなのに

「酷い、ひと…。」
顔を上げ目を閉じたまま涙を流し続ける菊を、サディクは一瞬ためらい、ぎゅうと抱きしめた。
無防備な白い首はまるで生贄の乙女のようだ。
この人の行く先が神の下ならばまだいい、身が切られる痛みと喪失感にも菊が望むなら叶えてやる。
だがあいつの下へなどやるものか、楊を見捨てる酷い男となじられようが恩知らずだと言われようが、俺は決してこのひとを離すものか。








どれだけ時間が経ったのかあるいは数分の出来事であったかわからない。
菊は濁っていた息の全てを吐き出し涙の全てを流しつくし目を開いた。
いつ座りこんだのか、長椅子の上でサディクに抱きしめられていた。
振り仰いで褐色の頬に触れれば、傍らの水を与えられた。
体の中に染み渡る水は、新しい力の源のようで心地よかった。

「菊さん。」

声が出ないので、重い瞼を開いて彼の顔を見つめたまま首を傾げれば、抱きしめられた。

「離さねえ、からな。あんたは俺のもんだ。」

あれだけ私を揺さぶって突き詰めて、私の全てをなぎ倒してしまったのに、この人はなんて可愛い事を言うのだろう。
精一杯腕を回してトントンとあやすように背中を叩けば、安心したように息を吐いた彼に、彼の鼓動に私は満足した。

幼かった彼への愛おしさ、大きくなった彼に抱いた戸惑いと年上としての意地、どちらも同じ感情故のものだったのだ。
けれど、きっと私は気づかぬよう逃げていたのだ。求めても得られぬ人だと、兄の為に家の役にたつ為の身だと。

兄への気持ちは変わらない、けれど彼がいてくれるならば家なぞどうなろうと知るものか。
欲しいものが手に入る、これほどの幸せがあるものか。

サディクさん、あなたは本当に酷い人
私にこんな幸せを与えて
私の生きてきた場所を容易く捨てさせる

サディクさん、あなたは本当に恐ろしい人
私はもう、あなたから逃げられない




終。

09.05.01